資料D アンケート調査中において見られた出来事

  以下の資料は初めの小学校でのアンケート調査を進める途中で見られた出来事である。デス・エデュケーション教育の難しさを示すと同時に、対応の方法によってその成果も変化してくることを示した好例といえよう。
  バーチャルリアリティーと死の認識のアンケートを実施したところ、その中に2枚変わったアンケート結果が見られていた。それは、2枚のアンケート記入がピンクのマジックペンで書いてあったからである。
  後日この学校に訪れた時、この理由を聞いてみたところ、以下のような事実が判明した。先生のおっしゃるには、一人の6年生のH君は以下に示すように、書く事がかなりしんどかったらしく、又もう一人の同じように書いた生徒はおそらくH君につられて書いたのではとおっしゃっていた。

〇 アンケートの取り方について
  内容が難しいと聞いていました。事前に簡単に私も目を通しましたが、私があまり指導をしては、児童の本音が出ないと思い、質問を良く読んで答えるように言い、書かせました。

〇アンケート後(H 児童、T 担任、M 母親)
  H「先生、このアンケート書くのは、かなりしんどいよ。ひどいよ。ぼくピンクで書いたよ。」
  T「何がひっかかったのか、先生、目を通してもいい? 読んでいい?」
  H「いいよ。読んで。」

  アンケートを読みなおしました。そこに書かれていたのは、自分が小学3年生の頃に、待ちに待っていた妹の誕生と死でした。
  その頃同学年で組んでいた先生に、当時の様子を聞いたところ、生まれたけれどすぐに亡くなってしまったとのこと。
  これはあの子の心のケアと共に、親にも一言伝えなければと思い、すぐに自宅に電話をしました。
伝えた内容は
 @ 本日のアンケートの趣旨について
 A Hがピンクでアンケートに答え、特にしんどかったと言った質問について
 B それにHがどう答えたか
 C 「今とても妹に会いたい。会ってしゃべりたい」と書いていること。「親に対してありがとうの気持ちを持っている」こと。
  Hがとても成長し、振り返り、妹の誕生をこんなにも大切に思っていることを伝えた。やさしく、思いやりのある子であり、担任としても、今共に歩んであることはとても幸せであることを伝えた。
  Mより 親はこの電話をありがたいと言ってくれ、Hの成長と妹思いのお兄さんぶりに涙していた。また、私にこの出来事を伝えていなかったことをわびていた。

Mより 妹誕生の様子、死の様子、Hの様子
  待ちに待った2人目の誕生。Hは本当に待ち望み、とても楽しみにしていた。「お兄ちゃんになる。面倒みれる。」とワクワクの毎日。
  出産 出産後も順調だったが、生後2日目、夜、突然新生児室に呼ばれた時には、息絶えていたとのこと。いわゆる乳児突然死症候群だったとのこと。
  母親だけの退院となる。帰宅してみると、Hはふくれ顔、しばらくは、Mに口もきかなかったようである。
  ただ、その後、成長していく様子を見ていると、とても年下の子どもにやさしく、一緒に遊ぶことが多くあるようである。やはり、その影響と言っています。

 D Hには電話で、まず、開口一番あやまった。と共にたくさんほめた。
 E 先生がもっとHの事情を知っていれば、アンケート前に一言かけられたことをあやまり、ピンクペンで書いたHの気持ちをその場で受けとめてあげられなかったことをあやまった。
  Hがとてもやさしく、妹思いである事、妹はとても幸せな子であること。又、お母さんもHの気持ちを知り、成長ぶりをたのもしく思い、うれしくおもっていると伝えた。妹さんのぶんも両親を大切にねの一言もつけ加えた。アンケートについては、明日、皆が「身内の死」をどうとらえているのか知らせると伝えた。

〇翌日 クラス児童全員に(とはいえ、Hへのメッセージでもあります)
・ みんなが「身内の死」をどんなに悲しんでいるか、どんなに今、会いたいと思っているのか。
・ でも、もうもどってこない人であっても、皆の心の中では生きているということ。
・ 亡くなった人を思い続ける、大切に心の中にしまっていける気持ちはとても大事である。
・ 人間は必ず「死」を迎える。そこに至るまでに、小学生である皆はどう生きていくのか、中学、高校で何をしていくのか。ある日突然「死」を迎えることが我が身にくるかもしれない。だから、小さくても「人間として生きる」ことを考えるようにと伝えました。

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